エンジニアとSES契約を結ぶ際、報酬条件として精算幅を設定することがあります。実際の作業時間が精算幅を上回る、あるいは下回る場合には、超過・控除の計算が必要です。この記事では、精算幅の概要や超過・控除の計算方法、注意点を解説します。
精算幅とは?
エンジニアとSES契約(※)を結ぶ際、報酬の基準となる作業時間に幅を持たせて単価を設定するのが一般的です。この時間の幅を「精算幅」と呼びます。
SES契約では作業時間に伴って報酬が変動しますが、契約終了後に1分単位で精算するとなると、事前のコスト管理に支障が生じます。契約時には精算幅を設けることで、報酬の安定化を図れます。 精算幅を設定する場合、プロジェクトにおけるエンジニアの作業時間に上限と下限を設け、その範囲内であれば規定の報酬を支払うことになります。精算幅は1ヶ月単位で定められることが多く、契約時に合意が必要です。プロジェクトの進行状況や業務内容によって柔軟な設定が可能です。
(※)SES契約・・・エンジニアの作業時間に対して報酬を支払う労働形態のこと。
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1ヶ月の精算幅の目安
一般的な企業では1日8時間、週5日勤務となるため、1ヶ月あたり160時間の作業時間が想定されます。この160時間を基準として、前後20時間の幅をもたせた「140時間〜180時間」が精算幅の目安です。 精算幅はプロジェクトの難易度やエンジニアのスキルなどに応じて、柔軟に上限・下限を設定できます。ただし、精算幅の設定が広すぎるとエンジニアの負担が増え、狭すぎるとプロジェクトの進行に影響が出るリスクがあります。したがって、契約双方にとって適切な精算幅の設定が成功の鍵となります。
基本的な精算方法
精算幅を設けた場合、契約で設定された時間と実際にエンジニアが作業した時間を比較して報酬を確定します。作業時間が精算幅の範囲内に収まれば、規定の報酬を支払うだけで済みます。 しかし、プロジェクト状況によっては、想定よりも作業時間が増加あるいは減少することがあります。この場合、実際の作業時間に合わせて報酬を調整する必要が生じます。
精算幅に収まらなかったら?超過・控除の計算方法

作業時間が精算幅に収まらなかった場合には、その過不足分の調整が必要です。1ヶ月の合計作業時間が精算幅の上限を上回れば「超過精算」、精算幅の下限を下回れば「控除精算」を行います。
超過・控除の計算をする際、次のような手順を踏みます。
- 精算幅と実際の作業時間の差を洗い出す。
- 契約時の規定報酬をもとに時間単価を割り出す。
- 過不足分の報酬を算出する。
- 実際の報酬を加減する。
このとき、注意しなければならないのが「時間単価」の計算方法です。最終的な報酬が変わってくるため、次項で解説する計算方法を把握しておくようにしましょう。
超過・控除の3つの計算方法
精算幅の超過・控除の計算方法は、「上下割」「中割(中間割)」「固定」の3つに分けられます。ここでは、それぞれの具体的な計算方法や特徴について解説します。
上下割
上下割とは、精算幅を超過した場合は上限値、不足した場合は下限値を基準にして、時間単価を計算する方法です。超過計算と控除計算では時間単価が異なるのが特徴です。
例えば、140〜180時間の精算幅で、規定報酬を50万円に設定したとします。超過時には上限の180時間、不足時には下限の140時間を基準として、下記の通り時間単価を計算します。
- 超過時・・・50万円÷180時間=2,778円
- 不足時・・・50万円÷140時間=3,571円
※小数点以下切り捨て
上下割では、超過時に追加払いする金額は少なくなり、不足時に控除する金額は多くなるため、IT企業側にとってはコスト抑制の効果が大きいメリットがあります。しかし、裏を返せばエンジニアが損をすることになるため、作業時間の変動が発生しそうなプロジェクトでは敬遠される恐れがあります。
中割(中間割)
中割(中間割)とは、精算幅の中央値を基準にして時間単価を計算する方法です。超過時・不足時ともに同じ時間単価を使用するため、シンプルでわかりやすいのが特徴です。
例えば、140〜180時間の精算幅で、規定報酬を50万円に設定したとします。中央値は160時間のため、時間単価は「50万円÷160時間=3,750円」となります。
上下割と比べると、超過時に追加払いする金額は多く、不足時に控除される金額は少なくなります。エンジニアにとってはメリットですが、IT企業にとってはデメリットとなり得ます。
固定
固定とは、精算幅の上限・下限に関係なく、エンジニアに支払う報酬を固定する方法です。作業時間が精算幅を超えたとしても、超過精算は行われず、逆に精算幅を下回っても控除されることはありません。
IT企業はコスト管理しやすく、エンジニアは安定した報酬が得られるメリットがあります。一方、実際の作業時間に見合った支払いを得られないとしてエンジニア側から敬遠されることもあり、優秀な人材を確保する上では不利になる恐れがあります。
超過・控除の計算が重要な理由
SES契約における超過・控除の計算は、実際の作業時間に応じた報酬の支払いを約束してエンジニアを守る意図があります。
SES契約は雇用契約とは違い、プロジェクトごとや期間ごとなど、必要なときに必要な人材を集める目的で結ぶ契約です。長期雇用が約束されていない分、エンジニアが安心してプロジェクトに取り組めるような報酬体系が欠かせません。
特に、固定精算は作業時間が超過しても報酬が変わらないため、エンジニアからは敬遠される傾向にあります。優秀なエンジニアの獲得競争で優位に立つためにも、実情に則った報酬の支払いをするようにしましょう。
精算幅を設定する際の注意点

精算幅を設定する際、IT企業側とエンジニア側に認識のずれがあると、後々トラブルの原因となる可能性があります。SES契約においては3つのポイントに注意しましょう
無理のない計画を立てる
精算幅の上限値・下限値を設定する際には、現実的な作業時間を見積もる必要があります。精算幅が狭すぎると、突発的なトラブルに対応できず、品質低下やエンジニアの負担増につながります。反対に、精算幅が広すぎると、エンジニアの稼働時間が増え、適正な報酬を確保できない可能性があります。
プロジェクト状況やエンジニアの作業負担を考慮し、無理のない計画を立てるようにしましょう。IT企業側とエンジニア側の双方が納得できる精算幅を設定することが重要です。
作業時間の単位や日数を明確に設定する
精算幅を用いたSES契約を結ぶ際、精算幅そのものだけでなく、作業時間の単位や日数の設定も欠かせません。毎日の作業時間を1分単位で記録するのか、1時間単位で記録するのかによっても、最終的な報酬が変動するためです。
また、1日あたりの作業時間や週・月単位での作業日数についても明確にしましょう。例えば、週5日働く場合と週3日働く場合では、同じ精算幅でも従事する期間が大幅に異なります。
年末年始やお盆休みなどで営業日が変動する場合には、あらかじめ契約書に盛り込んでおくと安心です。契約期間中の円滑な進行を担保するためにも、細かな事項の確認を怠らないようにしましょう。
事前に超過・控除計算の認識を擦り合わせる
超過・控除の計算方法は報酬に直結するため、事前に認識を擦り合わせておくのが望ましいです。例えば、IT企業側は上下割で計算しているにも関わらず、エンジニア側は中割が適用されると考えている場合、支払い時にトラブルが生じる可能性が高まります。
契約時には、精算幅と実際の作業時間に差が生じた場合、超過・控除の計算方法を明確に示すようにしましょう。「上下割」「中割」などの専門用語だけでなく、どのような計算をするのかをできる限り具体的に説明しておくと安心です。
超過・控除の計算にはシステム導入が便利
SES契約における超過・控除の計算は、コスト管理に直結する重要な作業です。エンジニアごとに作業時間や報酬の調整が必要となるため、手入力での管理はミスやトラブルの原因となる恐れがあります。システムを導入することで、コスト管理の手間軽減やトラブル防止が期待できます。
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