コンプライアンス(法令遵守)は企業の持続可能な成長と信頼性の向上に欠かせません。インターネットが発達した現代では、企業が守るべき法令や社会規範の範囲も広がっています。この記事では、コンプライアンスの定義や違反事例、防止策を幅広く解説します。
コンプライアンスとは?簡単に解説
「コンプライアンス(Compliance)」とは、直訳すると「法令遵守」を意味します。企業が事業を運営する上では、法令や規則、規範を遵守することをまとめて「コンプライアンス」と呼びます。コンプライアンスは単なる企業ルールにとどまらず、企業が社会的信用を保ち、企業価値を高めるための基盤でもあります。
コンプライアンスの対象範囲
近年では、コンプライアンスの対象範囲を広く捉えるようになりました。法令遵守はもちろんのこと、企業の就業規則や倫理規範も含まれます。ここでは、コンプライアンスの具体的な対象範囲を解説します。
法令遵守
法令遵守はコンプライアンスの基本です。一言で法令といっても、企業が守るべき法令は多岐にわたります。IT企業にとって重要な法令としては、「労働関連法」「個人情報保護法」「知的財産権関連法」が挙げられます。
労働関連法
IT業界ではプロジェクトごとにエンジニアと契約する体制をとることが多く、労働時間の管理が曖昧になりがちな問題があります。長時間労働や賃金未払いを防ぎ、適切な労働環境を提供することは企業の責務です。
個人情報保護法
IT企業が扱うデータの中には、個人情報が含まれることが多いです。個人情報保護法では、こうしたデータを適切に管理し、漏洩や不正利用を防ぐためのルールを定めています。国外にサービスを提供している場合、他国の個人情報保護関連法にも注意しましょう。
知的財産権関連法
ソフトウェアやデジタルコンテンツなどの知的財産を取り扱う際には、著作権法や特許法などの知的財産権に関する法令を遵守する必要があります。国際取引における国際的なルール整備も進んでいるため、最新の改正情報にもアンテナを張っておきましょう。
知らないうちに法令違反をしてしまわないよう、事業を運営する前には関連する法令を把握しておくことが重要です。
就業規則
就業規則とは、企業が独自に定める社内ルールです。常時雇用する従業員が10人以上いる場合、企業は就業規則を定めなければなりません(労働基準法89条)。
就業規則では、従業員が守るべき基本的な規範を示しており、労働条件や働き方、業務マニュアル、行動ルールなどが含まれます。就業規則の遵守により、社内トラブルや不正行為を未然に防ぐことができます。
企業倫理・社会規範
企業倫理や社会規範は、事業活動において守るべき道徳的な基準を指します。具体的には、環境保護や地域社会への貢献、持続可能な開発目標(SDGs)への取り組みが含まれます。
法令や就業規則のように明文化されておらず、企業の姿勢が問われるものと言えます。
コンプライアンスと内部統制・コーポレートガバナンスの違い
コンプライアンスと似た用語として、「内部統制」「コーポレートガバナンス」があります。
- 内部統制・・・事業を健全かつ効率的に運営するための仕組みのこと。
- コーポレートガバナンス(企業統治)・・・健全な経営のために自己を監視するシステムのこと。
いずれも企業運営において重要な概念ですが、それぞれ役割が異なります。コンプライアンスは、企業全体で法令や規則を遵守することに焦点を当てています。一方、内部統制は経営者が従業員を監視する仕組みで、コーポレートガバナンスは外部から経営陣の責任を問う仕組みを指します。
コンプライアンスが重要視される理由
コンプライアンスが重要視される理由の一つとして、企業による不正増加が挙げられます。バブル崩壊後、不況に陥った日本企業では、粉飾会計や不正取引などの不祥事が多発しました。企業が短期的な利益を追求するあまり、法令や倫理を軽視する傾向が強まったためです。
これにより、企業経営にはコンプライアンスが重要だという認識が広まりました。インターネットの普及により、企業の不正行為を容易に拡散できるようになったことも、この流れに拍車をかけています。
コンプライアンス違反の事例

では実際に、どのような行為がコンプライアンス違反に当たるのでしょうか。ここでは、IT企業でありがちな違反事例を解説します。
法令違反
民法や会社法、労働関連法など、企業が守らなければならない法令は多岐にわたります。特にIT企業が直面しやすい法令違反としては、下記が挙げられます。
- 著作権侵害・・・他人が作成したソフトウェアやデジタルコンテンツの無断利用など。
- 個人情報の流出・・・顧客の個人情報の管理不足によるデータ漏洩や不正利用など。
- 偽装請負・・・実際には業務委託契約とすべきところをSES契約として扱い、労働法規の適用を回避しようとする行為のこと。
こうした違反行為が発覚すると、罰則が科されるだけでなく、社会的な信用を損ないます。
労務上のコンプライアンス違反
プロジェクトの納期直前やリリース直前の追い込み期間には、エンジニアが過酷な労働環境に置かれることが少なくありません。しかし、労働基準法に違反する長時間労働や、未払いの残業代の発生は、労務上のコンプライアンス違反に該当します。
また、雇い主からの不当な扱いやハラスメント、劣悪な職場環境もコンプライアンス違反です。SES契約を結んだエンジニアと自社保有のエンジニアの間で、差別的な取り扱いをすることも厳しく規制されています。
会計・経理上のコンプライアンス違反
会計・経理上のコンプライアンス違反としては、不正会計や利益の過大計上などが挙げられます。外部からの投資を集めるために、売上や利益を実際よりも多く見せかけることは、重大な法令違反です。発覚すれば、投資家や取引先からの信頼を一気に失い、経営破綻に追い込まれるリスクがあります。
情報管理上のコンプライアンス違反
企業の信用を失わせないためにも情報管理は極めて重要です。情報管理上のコンプライアンス違反としては、一時的に契約したエンジニアが機密情報を外部に持ち出したり、不十分なセキュリティ対策によって個人情報が流出したりするケースが考えられます。
コンプライアンスに違反するリスク
コンプライアンス違反が発覚した場合、企業の経営に多大な影響を与えるリスクがあります。特に法令違反は罰金や業務停止命令、刑事訴追の対象となります。
コンプライアンス違反は企業の社会的信用を大きく損ない、今後の事業展開に対しても大きな制約をもたらしかねません。株式公開企業の場合、株価が急落する可能性も高いでしょう。
最終的には企業の存続を危うくする可能性があるため、企業全体でコンプライアンス違反を防止する取り組みが必要です。
コンプライアンス違反を防止する4つの対策

コンプライアンス違反を未然に防ぐためには、企業全体で徹底した対策が必要です。ここでは4つの防止策を解説します。
社内規定やマニュアルの作成・更新
コンプライアンスは定義が広いため、まず社内規定やマニュアルを整備する必要があります。企業内でどのような行動が求められるのかを明確に示し、社員全員が同じ基準で行動できるようにすることが重要です。特にIT企業では、法令や業界規範が頻繁に変わるため、これらの規定やマニュアルも定期的に見直し、更新することが求められます。
定期的な社内研修の実施
社内規定やマニュアルが整備されていても、それだけでは十分ではありません。従業員がその内容を理解し、日常業務において実践できるようにするためには、定期的な社内研修が必要です。コンプライアンスに関連する法令や規範は複雑で、時には難解なものも含まれるため、ケーススタディを用いた実践的な研修が効果的です。
ハラスメント相談や内部通報の窓口整備
コンプライアンス違反の兆候を早期にキャッチし、問題を未然に防ぐためには、ハラスメント相談や内部通報の窓口整備が必要です。従業員が安心して報告できるよう、通報者の匿名性を保証し、適切な対応プロセスを用意しましょう。
外部機関との提携
コンプライアンスの対象は広範囲にわたるため、自力ですべてを網羅するのは困難です。法務の専門家など外部機関と連携し、業界における最新情報を入手する経路を整えておくと良いでしょう。第三者の目からチェックしてもらうことで、コンプライアンス違反のリスクを減らせます。
コンプライアンス違反の回避のために周知徹底しよう
コンプライアンス違反を防ぐには、企業全体での徹底した周知が欠かせません。社内規定やマニュアルを最新の状態に保ち、社内研修や相談窓口の体制を整備する必要があります。企業の社会的信用を守るためにも、従業員一人ひとりがコンプライアンスの重要性を理解するようにしましょう。